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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
「やっぱり皆、俺を次期組長だと思ってるんだな」
「違うんですか? しかし弟の菊様は、病弱で明日をも知れぬ身と聞きましたが」
「菊はそこまで病弱じゃないよ、確かに入退院は繰り返してたけど」
「ですが序列を考えれば、やはり跡目は宗一郎様かと」
宗一郎は首を振ると、溜め息を漏らす。組にまだあまり関わりのない少女ですら、自分を奉る環境。宗一郎は思わず、本音をこぼしていた。
「中学校を卒業して働けるようになったら、俺はこんな家出て行くつもりだ。ヤクザなんてただの犯罪者じゃないか、母ちゃんだって、俺が落ちぶれるのは望んでいない」
「出ていったら、組はどうなるんですか?」
「それは……」
「組が解散になれば、多くの人間が職を失います。若はどうか、考え直してください」
宗一郎は当たり前のように言葉を紡ぐ少女に、同情を覚える。おそらく少女は、組員の娘。組の中で育ち、それ以外の生き方を知らない人間だ。自ら選んで極道に入った大人とは違う。外の綺麗な空気を吸う事すら知らないなど、憐れみ以外の何物でもなかった。
彼女へまともな世界を教えられるのは、闇に染まっていない宗一郎だけである。