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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
自分の行く末すらまだ見えない宗一郎にとって、他人の人生の矯正など重圧でしかない。しかし宗一郎は、彼女の手を握り返していた。
「美和子……だっけ? 出ていったらどうなるか、試してみるか?」
「え?」
宗一郎は美和子の返事を聞かず、裏口の方へ向かう。家出などすれば、屋敷中で大騒ぎになる。だが、出会って間もない、同年代の少年との逃避行という非日常は、美和子の未熟な心をくすぐった。結局引かれる手を振り払う事なく、美和子は宗一郎に付いていった。
電車に飛び乗り、有り金を全て切符に変えて、遠くへ。それは帰りを全く考えない、無謀で浅はかな計画である。だが知らない景色が流れてくるにつれて、二人が抱くのは楽しさだった。
「あ、見てみろよ。海、見えるぞ」
「海……いいですね。行きましょう、若」
行き当たりばったりで電車を降りて、二人は海岸へと向かう。だが既に海水浴シーズンは終わり、既に日が西日へ傾いた今、砂浜に人影はない。寄せては返す波の音が、はしゃぐ若い心臓を鎮めていった。
「……何やってるんだろうな、俺達」
「ええ、本当に。でも、たまにはいいんじゃないですか?」