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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
思いのほかあっけらかんとした美和子の物言いに、宗一郎は大笑いする。一歩外に出れば、まともな空気に人は馴染める。宗一郎は、自分の価値観に間違いはないと強く感じていた。
「海、綺麗だな」
「綺麗ですね」
ふと視線が絡めば、若い衝動はためらいなく体を動かす。宗一郎は美和子の頬に触れると、唇を重ねた。
唇が他人の熱を知ったのは、互いに初めて。海風のせいか、その味は涙のように塩辛かった。
二人にとって不幸だったのは、まだ二人とも若すぎた事だった。いくら手を取り合っても、現実に二人が逃げる事は不可能である。波が遠くに引いてもまた岸へ戻るように、海がいかに広くとも、帰る場所は一つしかなかった。
闇の迫る夜。結局二人は組員達に見つかり、浅はかさを叱られながら屋敷に戻る。宗一郎が祖父から説教を受けている間、美和子は宗一郎の父、組長である則宗に、離れの和室へ呼び出されていた。
「……連絡もせずに若を連れ回して、申し訳ありませんでした」
美和子は、則宗が今日の事について叱るのだと思って先に頭を下げた。だが則宗は美和子の顔を上げさせると、品定めするように見つめた。