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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
その時、部屋に皿の割れる音がかしゃんと響く。菊がすぐに片倉から身を離し振り返ると、顔面蒼白になった菖蒲が立っていた。
「菖蒲、怪我はありませんか? 動かないでください、今片付けますから……」
「ご、ごめんなさい! あ、お……お邪魔しましたっ!!」
動くなと言われた菖蒲だが、脱兎の勢いで玄関に走り出す。突然外へ飛び出した菖蒲に、菊は驚いて後を追う。しかし足に走る痛みが邪魔をした。
「若!」
割れた皿の破片を踏んだようで、菊の足の裏からは血が滲む。片倉も慌てて駆け寄るが、菊は大声で制止した。
「待ちなさい! あなたまで怪我したらどうするんですか」
「し、しかし」
「こんな小さな傷、傷にも入りません。僕はすぐ菖蒲を追いますから、あなたは片付けをお願いします」
それだけ言い残すと、菊は手当てもせずに部屋を出ていく。ぽつぽつと残る血の跡を見つめ、片倉は唇を噛む。火照った体は一瞬で冷え切り、重く淀んだものが肩にのしかかった。
「……裏切り者の、娘のくせに」
黒く染まった言葉は、誰の耳にも入らない。しかし生まれた感情は、瞳から光を奪って住み着いていた。