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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
「見つけましたよ、菖蒲」
菊が街中をとぼとぼと歩く菖蒲を見つけるのは、飛び出してから五分もたたないうちの事だった。広い街でこんなにも早く捕まると思っていなかった菖蒲は、取られた腕を振りほどこうと力を込める。だが、大人の男の力は、菖蒲を完全に封じ込めていた。
「あ、あたしより先に片倉さんを大事にしてあげなきゃ! 迷惑なら帰るし、遠慮しなくていいから」
「どうして片倉の名前を出すんですか。片倉が嫌いなら、顔を合わせないように手配しますよ」
「そういう事じゃない! 片倉さんは好きだよ、綺麗だし優しいし、憧れるもん!」
「ではなんで飛び出したんですか。あなたが何をしたいのか、僕には全く分からないのですが」
竹刀があれば勝てない相手はそういないが、今は丸腰。街角では、菖蒲はただの少女に過ぎなかった。
「皿を割った事を気にしているなら、問題はありません。普段使いの皿なんて、どうせ大した値段でもありませんし。言いたい事があるなら、何でも言ってください。何でも聞きますから」
「……本当に、何でも聞いてくれるの?」