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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
「体質って……調べてもらったのか?」
「今こそ体に問題はありませんが、昔は病気がちでしたからね。健康には気を遣っているんです。病院で聞かされましたよ」
二人の会話の意味は、幼い菖蒲には全く分からない。だが心なしか影を落とす菊に、菖蒲は父の手から飛び出した。
「おじさん、病気なの?」
菖蒲は菊の膝に乗ると、手を額に当てる。熱はなかったが、他になにか悪いところがあるのかもしれないと、ぺたぺたと体を触る。
「菖蒲、止めなさい!」
すると宗一郎は顔面蒼白になり、菖蒲を引き剥がす。そして床に土下座して、声を震わせて謝った。
「す、すまない! 菖蒲に悪気はなかったんだ、許してくれ!」
過剰すぎる怯えに、菖蒲は目を丸くしてしまう。菊も同じように首を傾げると、宗一郎の肩に手を置き微笑んだ。
「許すもなにも、怒ってなどいませんが? 優しくて気持ちのいい娘ではありませんか。ほら、お兄様が過敏だから、菖蒲も固まってしまいましたよ?」
菊は菖蒲を抱き上げ、再び膝の上に乗せる。そして猫を可愛がるかのように撫でながら、恐る恐る顔を上げた宗一郎に言い切った。