この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
顔を合わせても特に利はなく、年も離れた菖蒲が菊に構ってもらえるのは、菖蒲が姪だからだ。赤の他人であれば挨拶を交わす仲にすらなれないだろうと、菖蒲は感じていた。
「だから、辛いんです。あたしは姪でなきゃ、叔父さんにとって対した価値もありません。頭だって良くないし、料理だって下手くそだし、片倉さんみたいに役に立てないし」
「片倉? あー……でもあいつは、いくら優秀でも、若の最愛にはなれないッスよ?」
成実は両腕を前に組み、しばらく唸る。そして眉間に皺を寄せながら、心持ち小さな声で菖蒲に問い掛けた。
「これ、オレが話したって絶対言わないでくださいよ?」
「え? は、はい」
「ここだけの話ッスけど、若は、その……子どもが出来にくい体質なんスよ。組ちょ、いや、若のお父上も同じ体質なんで、遺伝なんだと思うんスけどね。まあお父上も若という跡目が生まれたんだし、可能性がまったくない訳じゃないんスよ」
成実の告白に、菖蒲は言葉を失う。紳士的で金持ち、見た目も端正な菊が今まで独り身でいた理由が、体にあるとは思いもしなかったのだ。