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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
「片倉の奴は長いこと若のお付きらしいッスけど、若の子を産んだ事はないッス。となると、多分あいつは、若の遺伝子を受け入れられる体じゃないんスよ。だから仕事のパートナーとしては重宝されても、若の恋人にはなれないでしょうね」
ふと菖蒲は、今日の朝菊が漏らしていた愚痴を思い出す。自分は子孫を残すなと神に決められた、などと話すのは失恋で荒れただけかと思っていたが、きっと心からの本音だったのだろう。
「もしこの先、子を産める女が現れたとしても、その人と相思相愛になれるかは分からないッス。もちろん相思相愛になった女が、若の子を宿せるかも分からないッス。一般的には普通の幸せも、若にとっては遠い幸せなんスよ」
二人の間に、長い沈黙が流れる。心の内では感情が渦巻くが、それをどう言葉にすればいいのか分からなかったのだ。
「……だから、オレは可能性を狭めたくないッス。もちろん、子孫を残すだけが幸せじゃないし、若が特段不幸だとは思わないッス。けど、好いてくれる人がいるなら、試してみてもいいんじゃないかと」
成実が非礼と分かってこんな話を打ち明けたのも、菊のためだ。菖蒲だって、それが分からないほど鈍くはない。