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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
幸せの形は一つでないにしろ、菊にはまだ未練がある。だからこそ、神に許されないと寂しげに笑ったのだ。
「あたし……叔父さんにとって、そんな存在になれるかな」
「それは、オレにも分からないッス。けど、少なくとも若は姫様を大切にしてるッス。可能性がないとは、言い切れないッス」
菖蒲はそれ以上何も言わず、考え込む。菊も知らない、女の顔を浮かべて。しかし悩んでも、結局答えは二つに一つしかない。
攻めるか、引くか。菖蒲の中で育つ刃は、やがて一つの答えを選んだ。
事務所へ戻っていた片倉を呼び寄せ、菊が向かっていたのは一文字の本家だった。祖父の趣味で和風に仕立てられた屋敷は、普段なら入るだけで身が引き締まる。だが今日は、足音を荒げずにはいられなかった。
「なんて事をしてくれたんですか」
襖を乱暴に開き、菊はとある部屋にずかずかと乗り込む。そこには煙草をふかしながら札束を数える、父・則宗の姿があった。
「アポも取らずに乗り込むたぁ、無礼だなぁ、菊。自分の立場が分かってんのか」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。エドワード氏との取引の件、きっちり説明してもらいます」