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ただ一つの一対
第4章 花園への道
「実になるって、どんなものならいいんスか? オレ、青春映画と任侠ものしか分からないっスよ」
「それは……例えば、絶滅危惧種のドキュメンタリーとか」
「それ、面白いんスか?」
「面白い面白くないの問題ではありません。世俗を離れ、己の魂を磨く事が剣道の鍛錬にも繋がるんです」
「若、なんか今日変じゃないっスか? いつもはそこまでストイックじゃないでしょう」
菊の心情を知らず、成実は首を傾げ訝しむ。不審な瞳に苛立ち、菊は成実に拳骨を食らわせ黙らせた。
「お、叔父さん?」
「菖蒲、あまり娯楽へ夢中になりすぎて、勉強や鍛錬をおろそかにしてはいけませんよ。漫画もいいですが、今度小説を買ってあげましょう」
「叔父さんは、本が好きなの?」
「本を読んで損をする事はありませんからね。特に僕が好きな作家は――」
菊は悠然と語るが、話す作家の名前を菖蒲は一人も知らない。遠い感性に菖蒲は落ち込むが、菊はそれに気付いていなかった。
「あ、あのね、叔父さん」
「どうしました? なんでしたら今からでも本屋に……」
「そうじゃなくてね、今日……なんだけど」