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ただ一つの一対
第4章 花園への道
菖蒲は自分の指を弄りながら、恐る恐る切り出す。
「あたし、今日は家に帰る。お父さんに電話したら、迎えに来てくれるって。今こっちに向かってる」
「帰るって、どうして。成実が何か、失礼な事でもしましたか?」
「ううん、成実さんはすごくよくしてくれたよ。誰が悪いとかじゃなくて、あたしがそうしたいの」
泊まらずに帰るなど、菖蒲が行き来するようになってからは初めての事である。菊が言葉に詰まっていると、菖蒲はさらに続けた。
「それとね、今度の大会が終わるまでは、こっちに来ないで地元で練習しようと思うの。特別な先生に指導してもらうんじゃなくて、自分の力だけで勝ちたいから」
「つまり、大会が終わるまでは泊まりにも来ないと?」
「うん。でもね、大会は見に来てほしいな。あたし誰よりも強くなったって、証明してみせるから」
そう言われてしまえば、菊に引き止める言葉はない。叔父と姪、親戚ではあっても家族とは違うのだ、距離が少し遠くなっても、無理のない関係である。
「それとね、もう一つ。あたしが優勝したら、お願いがあるの」