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ただ一つの一対
第4章 花園への道
お願い、と聞いて、菊の頭に過ぎるのは昼間の出来事。揺れる菊をしっかりと見据えた菖蒲は、真っ直ぐに言い放った。
「叔父さんに、どうしても言いたい事があるの。優勝したら、逃げないで聞いてほしい」
「それは……聞くだけ、ですか? 何かしろとか、そういう事ではなくて」
「うん。聞いてくれなきゃ、どうしようもないから」
何かしろと要求されれば、安易な約束は出来ない。だが聞くだけならば、菊はいくらでも逃げる術を心得ている。
「分かりました。では優勝したら、聞いてあげましょう」
「絶対だからね、約束だよ!」
絶対などと言い張る菖蒲は子どもそのもので、菊は少し安堵してしまう。昼間は片倉の刺激に流されただけ、まだ目の前にいるのは少女だと、そう侮っていた。
「……では、もう少し映画を見ていてください。まだ夕食にはしていないでしょう? 簡単にですが作ってしまいますから」
「でも、もうちょっとでお父さん来ちゃうよ?」
「お兄様の分も用意します。せっかく車を出してこちらへ来られるのですから、もてなしもせずにすぐ帰すのは無礼でしょう?」