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ただ一つの一対
第4章 花園への道
「若、オレは!? オレもご飯食べたいっス!」
「お前は帰りなさい。家族の団欒に、見知らぬ男が混じっていたらおかしいでしょう」
「そんなぁ、あんまりっス!」
「ほら、御駄賃は弾みますから。今日はありがとうございました、助かりましたよ」
菊は懐から分厚い札束を出すと、ねぎらいの言葉と共に成実へ渡す。すると泣きそうだった顔はころりと笑みに代わり、敬礼すると踵を返した。
「自分、若に仕える事が出来て幸せっス! では、御武運を!」
単純な背中を見送る事はせず、菊はキッチンへ向かう。兄、宗一郎がやってきたのは、ちょうど夕飯の支度が終わった頃だった。
インターホンの合図に菊は真っ先に反応し、玄関へ向かう。ドアを開けると、くたびれたシャツを着た、体格がいい髭の中年――宗一郎がそこにいた。
「お久し振りです、お兄様。今日は遠くまで来ていただいて、ありがとうございます」
体格はいいのだが、宗一郎の目は怯え、背も縮こまっている。それは、弟と接する兄の態度ではなかった。
「あ、ああ……菖蒲が、我が儘を言ってすまなかった」