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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「それくらいなら、別にあの人も嫌な顔はしないでしょうけれど……八百長でないなら、負けてしまうかもしれないわよ?」
「雑魚相手にいくら勝ったところで、井の中の蛙でしょう。出来るだけ本物と戦わせてあげたいんです」
「そのためだけに、今日ここまで来たの?」
「そうですが、何か不都合でも?」
菊は、自分がどれほど妙な発言をしているのか全く自覚がない。先程まで女を快楽地獄に堕とした男とは思えない気遣いに、女は深い溜め息を吐いた。
「一文字組の次期組長も、姪には弱いのね。いいわ、旦那には話しておく。その代わり……また、抱いてくれる? あんな思いをしたのは初めてで……でも、最高に感じたわ」
一文字 菊。整った顔と紳士な装い、特に厳つさのない体格からは想像も付かないが、彼はこの辺りを支配する暴力団「一文字組」の若頭であり、次期組長である。昔気質のヤクザと違い暴力的な手はあまり使わないが、法の目をくぐる知略に長けた、現代に適応した男。少しでも影に傾いた世界にとって、彼の存在は偉大だった。
その男が意図を持って女を抱くのだ、特別な理由がある事は誰でも分かる。しかしそれが姪っ子の試合だとは、誰も予想出来なかっただろう。