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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「あの子の高校生活で、たびたびお世話になる事もあるでしょう。その時は……じっくりと」
菊が触れずとも、視線を合わせるだけで女は色狂いと化す。人脈の手綱を手に取り、菊はまだ終わりそうもない夜へと戻っていった。
マンションの外に出れば、待ち構えていたかのように一人の女が声を掛けてくる。年齢は菊より大分上だが、黒いスーツからはみ出しそうな程の胸は張りがある。そして腰や足は細く、男の欲情を沸き立たせるものだった。アップに纏めた栗色の髪と、眼鏡の奥にある大きなつり目。特に女を泣かせたいと思う男には、格好の女だった。
「若、十五分の遅刻です。予定は詰まっています、早く車へ」
「それくらいの遅刻でいちいち文句をこぼさないでください。こちらは失恋したばかりで、女なんか抱く気分じゃないんですよ。それを種馬みたいにあちらこちらと、面倒臭い」
「潤滑な愛人関係は、安定した収入の源です。組を傾けたいなら、一人でやけ酒でもどうぞ」
「慰めの言葉一つないとは、冷たいですね。分かりました、行けばいいんでしょう。どうせ僕には、ただ一つの一対など存在はしないのですから」
「……若」