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ただ一つの一対
第4章 花園への道
「来るな!!」
優しい兄とは思えない、突き刺さるような険しい声に、菊は体を震わせ足を止める。月明かりに浮かぶ宗一郎は、父とよく似た修羅の顔をしていた。
「お兄様……?」
すると声に反応して、走り回っていた組員が数名やってくる。宗一郎は舌打ちすると、蒼白になって固まる菊を抱き上げた。
虫の居所が悪かっただけで、兄は兄だった。菊がそう安堵したのも、一瞬の事。こめかみに冷たいものを突きつけられて、菊は縮みあがった。
「俺に近付くな!! それ以上近付いたら、こいつを殺す!!」
がちり、と音がするのは、銃である。宗一郎は菊に銃を突き付けながら、やってきた組員達を牽制していた。
「若、お戻りください! 一文字組は、若が背負っていくべき場所です!」
「うるさい! 跡目なら菊がいるだろう、母ちゃんはそのために、わざわざこいつを産んだんだ!」
「そんな訳ないでしょう! 姐さんは組長を愛していたから、そんな年の離れた兄弟まで産んだんです」
「違う! 俺は母ちゃんから聞いたんだ。俺が働ける年齢になったら、菊を身代わりに置いて逃げろって!」