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ただ一つの一対
第4章 花園への道
言葉の意味はよく分からなくとも、それがどんな意図を持って発せられたのかは分かる。顔も覚えていない母の名に、菊は目を見開いた。
「何が一文字組だ、俺はこんな所、大嫌いだ!! 犯罪者の家を継ぐなんて、冗談じゃない!」
菊を人質に、宗一郎はじりじりと後退していく。だがその足は、新たに現れた人物によって止まる。
「何喚いてんだ、宗一郎」
煙草をふかしながら現れたのは、父である則宗。辺りの状況を確認すると、組員達を一人ずつ平手打ちした。
「何ぼさっとしてんだお前らはよぉ。早く捕まえりゃ済んだ話じゃねぇか」
「し、しかし菊様が……」
「あんなガキ一人死んだくらいで、何か変わんのか? 宗一郎の身柄の方が大事だろうが」
だが、組員達はそれでも躊躇したままである。役立たずを罵る代わりに舌打ちすると、則宗はずかずかと近付いていく。
だがその時、則宗に向かって一直線に女が走ってくる。細身の女だが、警戒していなかった則宗は横からのタックルに体勢を崩し転んでしまう。
「美和子!」
「若、お逃げください! 私も後を追います!」