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ただ一つの一対
第4章 花園への道
美和子と呼ばれた女は銃を宗一郎から奪い取ると、背中を押す。宗一郎は菊を突き飛ばすと、迷いなく外へ駆け出した。
「美和子、海で待ってる!」
最後に残したのは、美和子への約束。菊へを心配する姿は、最後まで見当たらなかった。
美和子は銃口を地面に伏した則宗に向けると、見下したまま引き金を引く。震える重い空気と共に飛び散るのは、真っ赤な血だった。
そして戦慄する菊にも、同じようにそれが向けられる。
「や、やめて……殺さないで」
小さな願いは虚しく、再び銃声が響く。組員達は逃げ出した宗一郎の後を追うより、撃たれた二人の身を優先せざるを得ない。そしてその混乱に乗じて、美和子も逃げ出していた。
菊が目を覚まして初めに見たのは、無機質な白い天井。幾度となく入院を繰り返していたため、ここが病院だという事はすぐに理解した。
「……おじい、様」
菊は手を伸ばそうとするが、感覚がなく動かせない。だが掠れた声に反応した着物の老人は、菊の頬に手を触れると長い溜め息を漏らした。
「良かった……生きているな、菊」