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ただ一つの一対
第4章 花園への道
規則正しい鳴る機械音に、この部屋は祖父の他に誰もいないのだと菊は悟る。兄も父も、菊の側にはいなかった。
「お母様は……ぼくを、身代わりにするため産んだの?」
管に繋がれた小さな体で、訊ねる言葉の悲しさ。祖父は菊の手を握るが、菊に感覚はない。
「ぼくがいれば、お兄様は逃げられるから……産んだの?」
体は弱いが、菊はその分聡明である。意味が全て分からなくとも、悟っているのだ。自分が愛されているかいないのかを。
「菊」
祖父は、痛む胸を押さえ、強い目で菊を見据える。幼子には酷であるが、ここで甘やかすのは一文字流ではなかった。
「確かに、お前の母親は則宗と険悪だった。幼い宗一郎を連れて、則宗の元から逃げたのも事実だ。捕まってお前が生まれた後もなお逃げ出して、とうとう死んでしまった。あの娘と則宗は、遺伝子の相性が合っても一対の仲ではなかったんだろう」
「いっつい……?」
「だが、それがあの娘の正義だった。宗一郎を表の世界で生かす、それだけが願いだった。端から見れば醜い様でも、あの娘にとっては絶対の正義だ」