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ただ一つの一対
第4章 花園への道
菊がどこまで理解しているかは分からないが、祖父は口を止めない。真に菊が一文字を継ぐ素養があるなら、時間が掛かっても理解するはずだと信じていた。
「則宗も、宗一郎も、皆自分が正しいと思って生きている。弱い人間は、その正義に巻き込まれるだけだ」
「でも……そんなの、汚いよ」
「そう思うなら、強くなれ。相手の正義を超える力を持って、世の中の流れを自分のものにしろ。汚いのが嫌いなら、お前が綺麗にしてやるんだ」
今の菊はまだ、弱く小さい。だが宗一郎と違い、菊は生まれたその時から極道の世界に浸かっている。力を手に入れたその時、余計な価値観に縛られず進められるのは、間違いなく菊である。
「強くなれ、菊。一文字の跡目は、お前だ」
菊は拳を握り、祖父の話に耳を傾ける。祖父は気付いていないが、その小さな拳にはまだ感覚が戻っていない。菊は無意識のうちに、握り拳を作っていたのだ。
そしてそれは、菊がただ巻き込まれるだけの人間ではない証である。辛い話を聞いても涙を見せなかった菊は、心臓を確かに強く鳴らしていた。