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ただ一つの一対
第4章 花園への道
 






 一文字の本家に響く、怪獣の走るような足音。襖が勢い良く開かれたと思えば、正座し習字していた壮年の男、左月に成実が飛び付く。

「左月さーんっ、助けてください!! 若が、若が……このままじゃ、倒れてしまうっス!」

 忍耐、という文字が飛び付いた勢いで、へそ曲がりな線に変わってしまう。歴戦を潜り抜けてきた瞳がギラリと光ったのに気付くと、成実は冷や汗を流し部屋の隅まで退いた。

「あの、いや、悪気はなかったっスよ? 落ち着いて左月さん、話せば分かるっス!」

「一人で盛り上がってんじゃねぇよ阿呆が。で、若がなんだって」

 左月は筆を置くと、机に肘を突き成実を見据える。髪には白髪が混じり、肌もしわがれているが、迷いのない態度は成実にとって強い味方だった。

「ほら、姫様が来なくなって二週間経ったでしょう? 若、この二週間ほとんど寝てないし、仕事しかしてないんス。あんな生活続けてたら、あっという間に過労死っスよ!」

「ああ……坊ちゃん、まだ学習してなかったのかい」

「学習?」

「若い頃はよく、そうして無茶しちゃ倒れてたんだよ」
 
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