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ただ一つの一対
第4章 花園への道
「若にそんなイメージないっスけど……本当っスか?」
「坊ちゃんは、基本仕事人間だからな。若紫や姫さんみたいなプライベートな付き合いがなけりゃ、仕事にのめり込むんだよ」
若紫と聞いて、成実は下唇を尖らせる。それは菊を振った女の通称なのだ。成実にとって、菊を否定するものは敵と同じ。思い出したくもない名前だった。
「だが、少し心配だな。昔より鍛えたとはいえ、もう坊ちゃんも三十代だ。すぐに息が切れ、肩も上がらなくなり、膝まで笑うようになる年代だというのに……」
「なんか、やけに切実な心配っスね。左月さんの実体験っスか?」
余計な一言は拳骨を呼び、頭を殴られた成実は涙を滲ませる。
「ヒドイっス左月さん!」
「黙れ、うるさいと干物にするぞ」
左月が立ち上がれば、追撃されるのかと成実は頭を抱えて守る。だが左月は成実を無視し、襖を開いた。
「若の様子を見てくる。お前の悩みも、解決出来るといいな」
成実の期待を背負いながら、左月は菊の元へ向かう。自室に籠もっていた菊は、成実が心配するのも無理はないほど顔色が悪かった。