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ただ一つの一対
第4章 花園への道
菊はようやく手を止めると、左月に向き直る。生白い顔色ではあるが瞳にしっかり芯を宿した表情に、左月は返す言葉がなくなってしまう。
「メリットがデメリットを上回るなら、手元に置く価値はあるでしょう。一つ問題があるとすれば、やり口が雑になってきた事です。誰が横流ししたかすぐに分かるような取引の妨害とは、らしくない」
スパイであるのなら、まずは尻尾を見せないのが鉄則だ。捕まらない範囲内で嗅ぎ回られるなら、菊も目を瞑れる。だが先日の取引の件だけは、その境界線を明らかに越えていたのだ。
「今すぐに処分するつもりはありません。が、あまり目に余るようなら、未来どうなるかは分かりません。実の娘を殺されてもなお、あなたは二心を持たず僕の元に仕える覚悟がありますか?」
「……私はおやっさんと契りを交わしました。血よりも濃い酒の味は、今も身に染みています。そのおやっさんが跡目と決めた坊ちゃんを廃するなど、天地がひっくり返ってもあり得ません」
「頼もしい返事、ありがたく思いますよ。では期待に答えるためにも、ますます精進しなければいけませんね」