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ただ一つの一対
第4章 花園への道
 






 広い会場の中でも、菖蒲が動けるのは白い線で四角に囲まれた中だけ。足を半歩でもはみ出せば、試合は止められ仕切り直しになってしまう。

 高い位置から見下ろす観客の目を気にすれば、緊張で本来の動きが抑制されてしまう。剣道には野球やサッカーと違い、心を奮わせる賑やかな応援がない。だからこそ、少し空気に飲まれれば相手に引きずり込まれてしまう。

 菖蒲の一回戦の相手は、運が悪く優勝候補と呼ばれている選手だった。今日に限らず、菖蒲はいつも一回戦から強い相手に当たる事がほとんどである。それ故に負けてしまったり、勝っても体力を削られ決勝前に力尽きたり、中学生の頃は実力の割にあまり成績を伸ばせずに終わってしまった。

「はじめ!」

 審判の声と共に立ち上がり、竹刀を合わせる。相手は高校三年生、負けてしまえばそれで終わり、来年はない。そのせいか、僅かに動きが固かった。力があろうと発揮出来なければ意味はない。

 どうせ初めから強敵に当たると考えていた菖蒲に、ためらう要素はない。相手が正気を取り戻すより早く、旋風の攻めを繰り出した。
 
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