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ただ一つの一対
第5章 花園の鍵は

引き剥がされてもなお、菖蒲は菊に縋りつく。涙をこぼしながらも強く訴える瞳は、曇りの一つもなかった。
「――駄目です、僕にはお兄様からあなたを託された責任があります。いいですか、あなたの父が僕の元にあなたを預けるのは、僕があなたを傷物にしないと信用しているからです」
「そんなの嘘! 見てれば分かるよ、お父さんは叔父さんが怖いから、文句言えないだけでしょ!」
「菖蒲、これ以上我が儘を言うと、怒りますよ!」
「叔父さんが心から思ってる事なら、怒ってたってなんだって聞くよ! でも今日の叔父さんは一般論ばっかりで、本音を聞かせてくれないじゃない!」
駆け引きのない真っ直ぐな言葉は、なにより菊の心を打ち動揺させる。菖蒲は菊の頬に手を伸ばすと、つま先を立てる。
「立場とか、世間体とか、そんなのいらない。叔父さんはあたしを……好きになってくれる?」
重なる唇から小さな舌が絡み、菊をこじ開ける。密着した体から感じる体温と柔らかな感触。鼻をくすぐる女の香り。差し出された甘い餌に、菊はタガの外れる音が聞こえた。

