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天使と悪魔は暁で交わる
第2章 どなた、ですか?
あ。
獣男。
今朝、いや、もう昼か。
さっき駅ですれ違った獣男だ。
間違えるはずない。
不覚にもイイ男だと思ったんだから、間違えないに決まってる。
深い黒。
髪と輝く瞳がまず目に飛び込んできた。
今こうして見ているだけでもクラリときそうだ。
「造影CT撮ります?
あ、待って、リンゲル流してから」
吊り下げたリンゲル液を急速滴下させる。
酸素増やしますか。
オペ用意してます。
と、早口で捲し立てたのは
ちょっとイイ男だと思った事をなかった事にする為だ。
ま、多分肝臓、膵臓くらいはヤッてると思うけど
この意識レベルからして、動脈はないなぁ。
「前田先生、CT行ってきて
これ、着替えてから行くから」
「は、はいっ」
なんだかまださっきの大木男のザワメキが残っているかのような処置室。
わたしは獣男からは既に視線を外していた。
手元の器械の確認と、ドレーンと、その他諸々を揃える。
「ね、スクラブの替えある?」
ナースその①に尋ねた獣男はそのまま部屋の隅っこの戸棚から同じ青いスクラブを取り出した。
バサリ、と人目を気にする事なく汗にまみれた物を脱ぎ捨て、新しく折り目のついたものと交換する。
「きゃぁ」
と、小さな悲鳴を上げたのはナースその①。
その声につられて見た先に、なるほど躯もちゃんと見せられるレベルのモノをお持ちなんだ、と納得して。
マスクの下で薄く笑った。