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天使と悪魔は暁で交わる
第2章 どなた、ですか?
だから、致し方なく
滅菌ビニールと上に滅菌ガーゼを乗せた物を掴み
獣男の額に当てがったのだ。
ガサリ、と鳴るのはこれもまた致し方なく。
「……何やってんの?」
サクサクと縫合されていく針と糸の動きが止まる。
この獣男の結紮は
髭より速い。
ふぅん。
こんな男がいるから、世の中不幸になる女が増えるんだわ。
「いえ、外回りがいないので
汗はこれでしか拭けません」
ガサガサとナイロンと獣男の皮膚の擦れる音を何度か繰り返し、私はそれをポイ、と床に落とした。
基本的に、手術中のナースに役割が決められている。
直介と呼ばれるのは内回りナース。
執刀ドクターや、その前に立つドクター
助手に入るドクターにこうして器械を手渡ししていく。
手術の進行に合わせて、どれをいつのタイミングで渡すか
経験と知識とある程度の予想が必要。
それに対して外回りナース。
ドクターの汗拭き、または足りない器械の準備やその他臨機応変に対応出来るように実際にオペには直接手を出さないナースをいう。
ERでは揃わない事なんてしょっちゅうだった。
マスクから覗いた、キレのある眼。
ちょっと見ただけであんまり関わらない方がいい気にさせるこの獣男。