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面影
第6章 家族
- 麗side -
『麗!旭くんが呼んでる!』
隣の綾に声をかけられ、
顔を上げるとすこし向こうで
旭くんが、こちらを向いて
軽く会釈をしていた。
『早瀬さん。あの、ちょっと
ご相談があって。』
『相談?』
『今日の夜空いてませんか?
ご飯でも食べながらゆっくり
早瀬さんと話がしたいんですが。』
ふと、聡太の方に目をやると
こちらなんて見向きもせずに
仕事に打ち込んでいる姿が見えた。
ホワイトボードの聡太のところには
〝湊 外回り→直帰〟と書かれている。
ー 今日は、”病院”に行くんだろう。
『…早瀬さん?』
『ごめん!予定大丈夫だよ!
じゃあ18時くらいにエントランスで!』
『了解です!じゃあまた後で。』
旭くんを見送り、デスクに戻る。
『ご飯のお誘い?』
『うん。相談したいことがあるん
だってさ。
多分棗のことじゃないかな。』
『棗くんも愛されてるね〜。
幼馴染の美女とイケメンな後輩に
心配されるなんて。』
実は、旭くんとご飯に行くのは
初めてじゃない。
何度か以前も行った事があって
棗のことをその度に
しつこく聞いてくる。
棗を本気で心配する
真剣なその眼に、
秘密を言ってしまいそうになった
事も何度かあった。
『ホント、棗には
世話が焼けるよ。ふふっ』
『…はやく棗くんが
…いや、棗くんも麗も。
ラクになれるといいね。』
『……え。…うん。』
『なんてね!麗もあんまり
悩みすぎると、眉間にくっきり
皺がいっちゃうよ〜♪ハハ』
『そだね。皺になる前に
綾に相談するよ。』
『うん!…待ってる。』
勘のいい綾には、私の仮面が
バレているのだろう。
綾の言葉にハッとする。
心から信用している
旭くんや、綾にはもう、
打ち明けてもいいのだろうか。
棗の過去と私たちの秘密を。