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面影
第6章 家族
ー18時過ぎ。
私は旭くんに連れられ
ゆったりとしたジャズが流れる
雰囲気のいいイタリアンに来ていた。
手慣れた様子で料理やワインを
一通り頼み、一息つく旭くん。
『急にお誘いして、
申し訳ありませんでした。』
『大丈夫だよ?本当に予定なかったの。
こんな素敵なお店に連れてきて
貰えるなんて、嬉しい。』
『フッ。気に入って頂けたみたいて
良かったです。
ここ、ワインも料理も美味しいん
ですよ。』
ふにゃりと笑う旭くんは、
なんだか犬みたいで可愛い。
『旭くんは、おしゃれなお店とか
いっぱい知ってそう。』
『ん〜…どうでしょう?
まぁ俺もオトコなんで。
意中の人をオトすために、
仕事以上に熱心にそういう店は
日々リサーチしますかね。ハハ』
『フフッ。旭くんらしいわね。
旭くんは今は彼女いないの?』
『実は、5年付き合ってる彼女がいます。』
『えっ!知らなかった!
いいの?こんな二人っきりで食事なんか
してて大丈夫??』
『毎回彼女にはきちんと伝えてますし、
一緒に住んでるんで大丈夫ですよ。』
『はぁ…そうならいいんだけど。』
『もうすぐ。
プロポーズしようと思ってます。』
『えええっ!!そうなの!
えっと…まだ早いかもだけど
おめでとう。』
私の思わず出た大きな声に、
ワインや料理を運んできていた
店員さんもビクリと肩を震わす。
『アハハハ。早瀬さん、
ビックリしすぎでしょ。
皆みてますよ〜。』
『だってビックリしたんだもん…』
顔を真っ赤にして俯く。
『彼女、家族がいないんです。
事故で両親を亡くしてて、
身寄りもなくずっと一人なんです。』
『え…』
『本当はもっと早く籍を入れても
よかったんですけど、
やっぱりそこは俺のプライドで。
ちゃんと食わせてやれるくらいの
給料貰える様になったらって。』
『うん。』
『初めて出会ったのがこの店でした。』
『…!』
『偶然そこでぶつかって、
偶然キスをした。』
旭くんは、懐かしむように
微笑みながら廊下を指差す。