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金木犀
第1章 prologue
いつも他の部活よりも終わるのが遅いから
辺りに人の姿はなかった。
シンとした、部室が並ぶ通路…中の2人の吐息は、
外にいても十分耳に届いていた。
逃げ出そうかと思った。
わざと中に入っちゃおうかとも思った。
だけどそれが出来なかったのは、先輩が紡いだ
「莉奈」という声が、あまりにも優しかったから。
…分かっちゃったから。
先輩は、「莉奈」さんの事が大好きなんだって。
甘ったるく響いてる「莉奈」さんの喘ぎ声。
パンパンと響く、肌がぶつかる音。
そして、
「好きだよ…」
先輩の、言葉。
弾かれたようにあたしはその場から逃げ出していた。
あのままあそこにいたら、
どうにかなっちゃいそうだったから。
夏休みは、コンクールに向けての練習漬け。
先輩といっぱい一緒にいられるって、
物凄く楽しみにしてたのに。
夏休み中にもっと距離を縮めれたらって、
意気込んでたのに。
その楽しみは、意気込みは、
一瞬にしてなくなってしまった。
あたしの失恋が…決定してしまった。
溢れる涙を止められないまま、
あたしは長い通路を走った。
「好きだよ」
先輩の優しい声が、いつまでも耳に、
脳にこびりついて離れなかった…