この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
はじめてをきみに
第1章 きみの名前を呼ぶ

ザーッとシャワーの流れる音が、風呂場から聞こえてくる。
「はーーっ、うまかったーー」と鍋を食べ終えてくつろいでいた俺に、「お風呂入っておいでよ」と先輩が促してくれたのがおよそ20分前。
先輩は皿洗いをしていたから顔は見えなかったけど、声はとても自然に聞こえた。意識しているのは俺だけなのかもしれない。
どぎまぎしながら風呂を出て、「じゃあ私も入ってくるね」と居間の扉を閉める彼女の背中を見送って、今に至る。
「……っはあああああ」
俺は、肩から掛けたタオルに顔を埋め、思いきり息を吐いた。
ダメだ。意識しすぎてる。もうアレのことしか考えられない。サルかよ。
――先輩と、キス以上のことはまだしたことがなかった。
そもそも俺と先輩が付き合い始めたのは一昨年の春、つまり先輩が受験生になった年。
たまたま委員会が同じで、惹かれあって、付き合ったのはよかったけど、先輩が目指していた(そしていま通っている)のはいわゆる難関大学。
受験勉強で忙しかった先輩との時間はなかなか取れず、デートだって数えるほどしかしたことないし、一緒にいた時間のうちで、いちばん印象深い場所は高校の図書室だ。
先輩の受験が終わったと思ったら、先輩は引っ越しの準備で多忙、俺は先輩と同じ大学に進むと決めて勉強に多忙。
そんなわけで、ほんとうに先輩とふたりっきりで過ごすのは、今日が初めてだったりする。

