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はじめてをきみに
第1章 きみの名前を呼ぶ




ザーッとシャワーの流れる音が、風呂場から聞こえてくる。


「はーーっ、うまかったーー」と鍋を食べ終えてくつろいでいた俺に、「お風呂入っておいでよ」と先輩が促してくれたのがおよそ20分前。


先輩は皿洗いをしていたから顔は見えなかったけど、声はとても自然に聞こえた。意識しているのは俺だけなのかもしれない。


どぎまぎしながら風呂を出て、「じゃあ私も入ってくるね」と居間の扉を閉める彼女の背中を見送って、今に至る。


「……っはあああああ」


俺は、肩から掛けたタオルに顔を埋め、思いきり息を吐いた。


ダメだ。意識しすぎてる。もうアレのことしか考えられない。サルかよ。




――先輩と、キス以上のことはまだしたことがなかった。


そもそも俺と先輩が付き合い始めたのは一昨年の春、つまり先輩が受験生になった年。


たまたま委員会が同じで、惹かれあって、付き合ったのはよかったけど、先輩が目指していた(そしていま通っている)のはいわゆる難関大学。


受験勉強で忙しかった先輩との時間はなかなか取れず、デートだって数えるほどしかしたことないし、一緒にいた時間のうちで、いちばん印象深い場所は高校の図書室だ。


先輩の受験が終わったと思ったら、先輩は引っ越しの準備で多忙、俺は先輩と同じ大学に進むと決めて勉強に多忙。


そんなわけで、ほんとうに先輩とふたりっきりで過ごすのは、今日が初めてだったりする。



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