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はじめてをきみに
第1章 きみの名前を呼ぶ

そのあと、一緒に徒歩5分のところにあるスーパーへ行って買い物をした。
「なに食べたい?」と訊かれて、季節も季節だし、反射的に「鍋!」と答えたら、先輩は「鍋って、料理ってほど料理じゃないね」と言って笑った。
食材を迷いなくカゴに放り込んでいくその背中とか、荷物を持つと「ありがとう」と言って俺を見上げる目とか、楽しそうに食材を切って、鍋の味見をする横顔とか。
それらを隣で見つめるのは、ずっとずっと、俺がいい。
それができたら、いったいどんなに幸せだろう。
こんなことを先輩に言ったら、女々しいって思われそうだから絶対に言わないけど。
ときどき、怖くなるんだ。いつか、先輩を失う日がくるかもしれないことが。
ほんとうに好きな人は、幸せと一緒に、怖さとかさみしさも連れてくることを、初めて先輩が教えてくれた。
俺は先輩が好きだ。ほんとうに好きだ。
だけど、怖いから、背を向けられたくないから、失いたくないから、大事にしたい。とてもとても大事にしたい。
――たとえ自分の本能を敵に回しても。

