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はじめてをきみに
第1章 きみの名前を呼ぶ

先輩は、言いかけた言葉を飲み込んでうつむいた。
耳が赤い。
「……うれしかった?」
「…………」
そうだったらいいな、っていう願いも込めて、訊いてみる。
先輩は、黙ってうつむいたまま、こく、とわずかにうなずいた。
……あー、ちゅーしたいな。
と思ったけど、さすがの俺も公共の場でそこまではできない。
「よかった」
俺はそう言って、ちゅーしたさを、先輩の右手を握る自分の左手のほうに発散させた。ぎゅっと指を絡めて、にぎにぎする。
「いたいよ」
と言いながらも、先輩は握り返して、同じようににぎにぎした。
……なにそれ。
「先輩、あんま煽らないで」
「え?」
「ちゅーしたくなるのであんま可愛いことしないでください」
「は!? ちが、そ、そっちが握ってきたくせに……!」
「そうでしたごめんなさい」
火に油? 駆け馬に鞭? 分かんないけど、とりあえず逆効果だった。ちゅーしたい。
俺はひたすら、先輩の白くて小さな手をにぎにぎしながら、電車が到着するのを待つ。

