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愛しては、ならない
第40章 更に抉られる、傷痕
何度も、いや何十回以上、そんないさかいを耳にした。
だが、両親は離婚せずにいる。
「晴香が成人――いや、結婚するまではちゃんと両親が揃っていたほうがいいだろう」
「そうね、べつにもう貴方のことはどうでもいいけれど、晴香が可哀想ですものね」
こんな会話を聞いたときには、吐き気が込み上げてきた。
そして、大笑いしたくなった。
なにが、晴香の為に、だ。
なにが、晴香が可哀想ですもの、だって?
「私のせいにしないでよね……っ」
母は、男性との関係がまだ続いているらしく、父は父で若い女性店員と付き合っているらしい。
それなのに、二人は夫婦の振りを止めない。
娘が何もかもを知っている事も知らずに、「忙しいけれどお互いを助け合いながら仲良しな夫婦」
を演じている。
「大根役者なのよ……パパも、ママも」
二人は娘の為に、良かれと思って仮面夫婦に興じているのかもしれないが、彼女には有り難迷惑でしかない。
自分達は良い事をしている善人だと思っているのが気に入らない。
善き母、善き父の仮面の下は愛憎が渦巻いているというのに。
そんな二人の子供だという事実に吐き気がして、死にたくなった。