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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②
彼女は俺を見て――涙が溢れそうな潤んだ瞳を俺に向けて――その頼りない細い腕を差し出して来た。
何故、そんな風に見詰めるんだ。
どうして俺に無防備に腕を拡げて見せる?
『私に触れないで』と言ったのは貴女じゃないか。
あんな風に俺を拒絶しておいて、そんな煽るような事をする理由はなんなんだ――
見詰めたその目はまるで、俺と恋を交わしあったあの夜に見たのと同じ――
「……く……っ……わからない」
俺は呻き、気が付けば頭から水を浴びていた。
冷たい滴が額から鼻先をつたい落ちて、涙と混ざりあう。
――分からない、分からない。
貴女の事になると何もかもが分からない。
貴女の事を考えただけで、姿を目にしただけで、正常な思考も判断も出来ない――