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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②
不意に靴音が側で止まる音がして、俺は頭を上げた。
洗面所の入口に、髪をお団子で纏めて黒縁の眼鏡をかけた水玉のワンピース姿の女の子が風呂敷を手に目を丸くして立っている。
――そうだ、ここは病院だった。
他の見舞い客もいる事を忘れて取り乱してしまっていた。
「すいません……どうぞ」
俺はびしょ濡れになってしまった髪をポケットから出したハンカチで軽く拭うと、無理矢理愛想笑いして、退いてその場を離れようとするが、背後から高い声に呼び止められる。
「あ、あの……西本君?」
「――!?」
「ごめんね、声掛けちゃってまずかったかな……
はい、そんなんじゃ拭けないでしょう?」
黒縁眼鏡の女の子はバッグからフェイスタオルを出した。
「……ありがとう」
俺は訝しげに彼女を何秒か見て、あっと声をあげそうになる。
髪型と眼鏡が違って分からなかったが、この間学校で会った、天然パーマの子だ。
森本が「ユカタン」と呼ぶ女子の友達だ。