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愛しては、ならない
第44章 こわれる ②
「きっと、剛さんの顔を見れば思い出すわよ……剛さんの事をあんなに気に掛けていたじゃない……」
とりなすように花野が悟志に話しているが、彼自身も本当に困惑している様子がその口調から窺えた。
「……一体、なんの事なんだ?
僕の息子は、祐樹だけだろう?」
「パパ!忘れたら駄目だってば!剛は俺のお兄ちゃんだよ!
俺にそっくりな剛だよ!ねえ!」
祐樹が必死に叫んでいるが、俺は他人事の様に聞いていた。
一体、誰の話をしているんだ?
剛って、一体誰なんだ……
『剛さん……』
甘い菊野の声が記憶の中、遠くで聴こえる。
貴方は俺を呼んだ――
いつか、遠い昔、あの施設で俺を見つけ、俺を欲しいと言った。
この家に来て、貴女は俺を何度も呼んだ。
『剛さん……』
だが、もう貴女は俺を呼ぶことは無いのかも知れない。
少なくとも、あの熱の籠った瞳で、俺の胸の中に貴女が飛び込んで来ることは無い。