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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行
「あ……清崎さんにバレたらまずいよね……これ」
「……いや、どうかな」
清崎の、いつも涙を湛えた様に潤む綺麗な瞳を思い出すと苦しくなった。
彼女と別れるつもりが、ズルズルと微妙なままで来てしまっている。
彼女の事は嫌いではないし、寧ろ魅力的な異性だと思っている。
菊野との事が無かったら、俺は彼女に夢中になっていたかも知れない。
菊野とこんな風になってしまったからと言って、清崎に安易に寄りかかって良いものか――と罪悪感を抱いてしまうのだ。
ふと俺の前髪に風の様な物が当たり、顔をあげると至近距離に夕夏の顔があり心臓が止まる程に驚く。
彼女は俺の肩に両手を置いて怒ったように言った。
風のように感じたのは、彼女の鼻息だったようだ。
「ねえっ!その失礼な受け答えはどういう意味っ?」
「え……?」
「私が今、どういう話をしてたかわかるでしょっ?」
「ええと……なんだっけ……」
「んも――っ」
怒ったように、どころではなく、夕夏は本当に怒っている。
何がどうしてそんな風に怒られなくてはならないのか理解出来ない俺は狼狽えて彼女を見詰めるしかなかった。