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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行
柑橘系のシャンプーの香りが鼻を掠めると同時に、細い裸の腕が背後から首に絡み付いてきた。
俺は、夕夏が風呂から出てきたのにも気づかずに浸ってしまっていたらしい。
涙を隠す猶予もなく、夕夏の指が俺の目尻をそっと拭う。
「それ、いい曲よね」
「あ……ああ……そうだね」
「いい音楽に出会うと、嬉しくて感動して泣いちゃうってあるんだよね――
まあ、私の友達連中はアイドル好きな子達ばっかりだし、そういう話してもあんまり理解されないけど」
「そういうものかな……?」
「だって、アイドルは先ずルックスありき、愛嬌ありきじゃない?
勿論ファンの子からしたら、この曲が好きとか色々あるでしょうけど、バンドは、ミュージシャンて言うからには音楽で勝負するのが一番よね!?
いくら顔が良かろうが何だろうが、肝心のそこが抜けてたら話にならないわよっ」
単純に曲に感動しての涙だと勘違いしているなら丁度良い、そう思いながら彼女の話に頷いてはいたが、背中に密着する胸の柔らかさに落ち着かない。
彼女が腕を絡めたままでいるのにもどうしたら良いのか分からず、思わず咳払いする。