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愛しては、ならない
第46章 小さな逃避行②
夕夏は「いった――い」と軽く睨むが、頬を膨らませたままで俺にしがみついてきた。
シャンプーの香りと肌の柔らかさが心地よくて、俺は恍惚としそうになるが、ついこの間までこの腕の中には菊野が居たのだ。
――忘れられるのだろうか。
短いけれど、とてつもなく濃密に愛し合った夜の数々。
抱き合った時に俺の腕に触れる彼女の艶やかな髪の感触。
俺の愛撫ひとつひとつに感じて上げた甘い声。
昇り詰めた瞬間の彼女の美しさ。
愛し合った後、恥ずかしそうに俺から目を逸らす愛らしい仕草も。
何もかもが、想い出に変わるのに、どのくらいの時間が必要なんだ――?
「……西本君……西本君?」
彼女に頬を軽く指でつつかれて、俺は我にかえった。