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愛しては、ならない
第46章 小さな逃避行②
「……また、泣きそうになってる」
「え……」
思わず目元を指で擦ろうとするが、その前に彼女が背伸びをして唇で涙を掬った。
俺を真っ直ぐにつぶらな瞳で見詰め、舌足らずに呟いた。
「さっきも泣いてたでしょ」
やはり、見抜かれていたのか。
ラブソングに感情移入して感情を昂らせていたのを。
彼女に見透かされていることに恥ずかしい、とは思わなかった。
寧ろ、不思議と安堵している自分が居たのだ。
彼女には自分の素のままを見せられる気がしていた。
思えば俺はずっと演じて生きてきたのかも知れない。
幼い頃は、両親から身を守るために自分を閉ざし、西本の家に引き取られてからは「よき息子、よき兄」を演じ、学校では
常に優等生としての態度を通していた。
清崎の前でも、俺は自分の本性を明かした事はない。