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愛しては、ならない
第7章 遊園地での賭け②
紅茶の水色の中に、あの日の剛の笑顔が浮かぶ。
私はカップを持ち、ぼんやりと剛の涼やかな笑い声と歪んだ口元を思い出していた。
目の前でいきなり泣き出した私に対してあの子は、まるで子供をあやすかの様にそのしなやかな掌で背中を優しく擦り私が泣き止むのを待っていた。
実の両親に当たり前に注がれる筈の愛情を貰えなかったであろう剛が、他人の、しかも自分よりも年上の大人の心に寄り添おうとしてくれていた。
そこまで出来るようになる迄には、凄絶な葛藤を乗り越えてきたのだろう。
園長の人の良い笑顔とシャキッと真っ直ぐに伸びた背中を思う。
――さらり、と今までの剛さんの話を聞かせてくれたけれど、園長先生がどれ程今まで心身を粉にして関わって来られたのか……
私には到底敵わないでしょうね……
だけど……
私は紅茶の中へ白い角砂糖をひとつ落としてみるみるうちに小さく溶けていく様を見ながら呟いた。
「私だってきっと……
何かが出来る筈だわ」