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愛しては、ならない
第47章 埋まらない溝
「外道に、魔女ね……
お似合いじゃない」
彼女は、彼の胸板に軽く歯を立てて苦く笑う。
「晴香……」
彼は、彼女の歪んだ唇をそっと指で触れたが、彼女に潤む目を向けられ、喉の奥が締め付けられる。
「ねえ、私、彰が好きよ」
「僕も……晴香が好きだよ」
「でも……一番に好きなのは……」
「……わかってるよ……」
「何で……彰を一番に出来ないのかな……っ」
「……晴香」
彼女は言葉を詰まらせて、俯いた。
小さな肩が震えた瞬間、大きな涙がシーツに落ちる。
「彰を大好きになれたら……良かった」
「晴香――」
もう良いのではないだろうか。
彼女も、自分も、本当に愛する人は他に居る。
けれど、叶わぬ思いを持ち続ける事に、もう疲れた――
すぐには忘れられ無くても、いつかは、傷が塞がり瘡蓋になりいつの間にかその痕跡も消えるように、痛みも引いていく筈だ。
彼が、彼女の肩に手を伸ばした時、スマホが着信を知らせる。
他の人間からの着信とは別のメロデイーが鳴っている。
諦める事を決めかけ、凪いでいた彼の胸が再び粟立った。
菊野からの電話だ。