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愛しては、ならない
第48章 喪われた記憶と
「悟志さん……私は……悟志さんが好き……」
「菊野……いいから……」
彼は、力強い腕で私の身体をかき抱きながら、その声をまた震わせている。
言ってはいけない。優しい悟志を、悲しませてはならない――
警報のように、頭の中でもう一人の私が叫んでいた。
だが、勝手に私の口が開き、声を出す。
あまりにも明瞭にはっきりとしたその言葉は、聞き違えようもない。
誰が聞いても、私の言わんとする事が分かってしまうだろう。
――そんな事、言わなくても良いのに。死ぬまでその言葉は自分の中に鍵を掛けてしまっておくべきなのに。
何故、今言う必要があるの?
沢山の人を傷付けてしまうのに、何故――
頭の中に小人が何体も居て、ハンマーで滅茶苦茶に叩かれている様にな凄まじい痛みをおぼえながら、私は悟志の腕に包まれながら彼を見上げた。