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愛しては、ならない
第49章 それぞれの決別
『ふふ……真歩さんは、いつも手を抜かないんだね。素晴らしいなあ』
悟志は、清潔感漂う笑顔をこちらに向けたまま、大袈裟な口調で言う。
「そうよ。お宅のところの菊野お嬢ちゃんみたいに、うっかり欠伸をしても可愛いとか、そういうお得な女じゃないもんですから。
残念ながらね――」
『真歩さんは、良い子だよ』
そう言って、彼の大きな掌が彼女の頭に触れた。
その擽ったい心地好さと彼の優しい眼差しに胸の奥がきゅっと音を立てる。
だが真歩は素知らぬ風で鼻唄混じりに言う。
「ふふ、言葉よりも、何かご馳走してくれる方がうれしいなあ、いつも菊野のお守りをしてるんだから!」
『ははは、敵わないなあ、真歩さんには』
彼の笑いにつられて真歩も笑顔を隣に向ける――が、彼の幻はもう消え去っていた。