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愛しては、ならない
第49章 それぞれの決別
祈りが通じたのかどうか、悟志は元気に目覚めた。
剛の事をすべて忘れて――だ。
倒れる直前にも悟志は剛と菊野の仲を疑っている様子だった。あの朗らかで、誰に対しても平等な愛情を注げる思い遣りと器の大きさを持った彼が、十五の息子に嫉妬の炎を燃やしていたのだ。
ほの暗い闇が彼の瞳の中にちらつくのを、真歩は痛ましい気持ちで見ていた。
そんな彼を見たくなかった。
だが、悟志が疑うのが分かる、と思ってしまうほどに、菊野と剛の間には何か入り込めない空気があった。
いつからかは分からない。だが、剛が菊野を決して「お母さん」と呼ばないのにも理由がある気がしてならなかった。
彼が菊野を見る瞳の中に時折熱い揺らぎが垣間見え、菊野が彼を呼ぶ声や、見詰める眼差しにも特別な何かが潜んでいるかのように見えてしまう。