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愛しては、ならない
第54章 四年後
剛は紙袋を見て瞳を揺らし、何かを言いたげに口を開いた様に見えたがそれは一瞬の事で、またテーブルに置いて祐樹を振り返った。
その表情はいつもの「決めた」風で、彼の胸の内を探ろうとしても跳ね返されるであろう、と予測できた。
祐樹は、今剛にどうしても聞きたい事が何かあったような気がするのだが、いざ口に出そうとすると明確な言葉にならなかった。
もどかしくて、思わず「ああ……もうっ」と呟くと、剛が目を細め腕捲りをし、リビングのアップライトのピアノの蓋を開き、指を慣らすかの様に最初はゆっくりとアルペジオを奏でていたが、次第にテンポアップしていく。
その鮮やかな指使いに祐樹は思わず見入っていた。
剛は指を休めずに訊ねた。
「お前……またピアノの事で来たのか?
この間のコンクールも入賞したんだろう?」
「あ……うん……今日はそういうんじゃなくてさ」
祐樹は本格的にピアノに取り組んでいた。
小学四年の時に初めてコンクールに挑戦した時は、あと一歩というところで予選落ちしてしまった。
元々の負けず嫌いに火が点いて、それからというもの、本気でピアノに向き合うようになったのだ。