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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ
彼の真っ白になった顔を見て、直ぐに後悔したが、彼が私に愛想を尽かすのには効果満点だったらしい。
私は演技が出来ないが、ここにきて漸く、『恋愛に於ける大人の女の振る舞い』という物が身に付いたのだろうか?
等と、馬鹿げた考えがよぎったが、今にしてみれば、もっと早くに彼を突き放すべきだったのだろう。
剛も、真歩も失った私は、一時喪失感に苛まれて、訳もなく涙ぐんでしまう日々を送っていたが、何時までも泣いてはいられない、とある日思い直した。
毎日ウダウダと悔やんでばかりの私とは違い、祐樹は毎日成長している。
初めて挑戦したピアノのコンクールの本選に行けなかった祐樹は、とても悔しがった。
泣いて悔しがる祐樹を初めて見た私は衝撃さえおぼえた。
だが、祐樹はずっと泣いてはいなかった。泣いている時でさえ、彼はもう次の目標を胸の中に掲げていたのだ。
『俺、次のコンクールにもエントリーするから』
しゃくりあげながら、キッパリと言った祐樹を見て、私自身も今のままでは駄目だ、と強く思った。