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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ
失った物のことばかり考えるのではなく、今自分が手にしている物や守るべきものの事を大切にしていこう、と思ったのだ。
私は祐樹のように音楽の才能があるわけでもないし、その他に何か人より秀でている物など何も持っていない。
けれども、そんな私を愛してくれる悟志を、愛していこうと思った。
直ぐには気持ちが追い付かないかも知れない。剛の事ばかり考えて、涙してしまうのも知れない。
いや、間違いなく、彼の事ばかりで胸が一杯だろう。
だって、当たり前だ。彼をあの施設で一目見たときから心を奪われて、ずっと思っていたのだから。
そんなに簡単に忘れる事が出来る訳がない。
彼の全てに恋していた――その声、その瞳、指先に、揺れる真っ直ぐな髪に、しなやかな腕に――
そして、私の身体に深く刻まれた彼の痕が薄くなっていくには相当の年月を要するだろう。
彼と過ごした烈しく、甘美な夜の数々は、時に夢という形で私の意識に入り込み、彼への恋情に再び火を点そうとするだろう。
だが、それも乗り越えて行くしかない――