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愛しては、ならない
第56章 二十歳の同窓会
俺が誕生日を祝って貰ったのは、両親が死んで施設に引き取られ、そこで「誕生会」をしたのが初めてだった。
他の八月生まれの子供たちと一緒にだったが。
自分がこの世に生まれてきたのは間違いなのだ、と俺は思っていたから、生まれた日を祝うという事に最初は戸惑ったものだ。
『剛さん、おめでとう』
菊野の声が聴こえたような気がして、身震いするが、勿論彼女がいるはずはない。
彼女の面影にまだ囚われている自分がつくづく滑稽だ、と可笑しくなってくる。
「菊野さんも毎年、俺の為にバースデーケーキを作ってくれたな……」
蝋燭を真剣な表情でケーキに立てて、火をともす時にはそれこそ何かの仇をうつのか?と思う程に険しい目をしていた彼女の頬は、小さな炎の明かりで橙に染まっていた。
その顔を見詰めていると、胸の中に不思議な暖かさが宿ったものだ。
彼女への気持ちを自覚せずに過ごしていた日々がとてつもなく遠くに感じる。